液状化現象の恐ろしさ
「地震大国」と言われる日本は、建物の倒壊や火事、津波などの被害を受けて、復興を繰り返した歴史があります。かつての教訓はさまざまな形で現代社会に生かされていますが、マイホーム購入に際し、地震が誘発する二次災害は死角になっているようです。なかでも重要なのが、海岸や河川の沿岸の埋立地に見られる液状化現象です。
液状化は、大事なマイホームに二度と住めなくなるほどの甚大な被害をもたらします。ところが、マイホームを購入する際、一般消費者はこの問題を考慮しない傾向があるようです。そのリスクについて、過去の被害事例を見てみましょう。
例えば、東日本大震災(2011年)では、震源地から遠い東京湾沿岸に液状化現象が発生し、被害を受けた住宅は26,914棟に上ります。このうち、マンションでは、 液状化による被害が計533件発生しました(「高層住宅管理業協会」調べ)。
阪神・淡路大震災(1995年)の液状化現象としては、神戸市のポートアイランド、芦屋市、西宮市等の埋立地で多くの被害が報告されています。兵庫県が埋立造成した芦屋浜地区(芦屋市)の超高層住宅棟群や戸建て住宅は、大規模な地盤の液状化により家屋が傾くなどの被害に見舞われました。
被害が発生した直後、住民は県に対して補償を要求しましたが、県側は「想定を超える地震だった」「県に補償責任はない」という主張をしました。要するに、「液状化現象を想定せずに購入したのは個人の責任である」というわけです。
さらに、宮城県沖地震(1978年)の地盤陥没により建物が全壊した被害者(建物所有者)が、宅地造成業者等に対して損害賠償を請求しましたが棄却されました。
ここに、当時と現在の大きな違いが見られます。当時は、液状化現象を起こし得る宅地造成の提供者の免責を認めない法整備がなされていませんでしたが、現在は違います。宅地建物取引業者は、一般消費者に対する「重要事項の説明」が義務付けられているのです。
本サイトでは、これがマイホーム購入の際の最重要チェックポイントであることを繰り返し述べています。特に重要なのが、該当物件が表示されたハザードマップの説明を受けたか否かです。
現在であれば、液状化現象により建物が被害を受けた場合、宅地造成業者による重要事項説明責任が争点になるはずです。その義務が果たされていなければ、当時のような免責はあり得ないのです。
購入者は、その説明を受けて十分吟味した上で購入の有無を判断します。そうした前提条件が整った上で購入したのであれば、個人としての責任を問われることになるのです。
液状化現象は、芦屋市のような沿岸部で発生するので、自分には関係ないと思われるかもしれませんが、安心してはいけません。液状化は平地でも起こりうるのです。
液状化現象について知れば、その危険性に驚くはずです。そして、建物の土台となる地盤を調査せずにマイホームを購入することはできなくなるでしょう。
液状化とは?
液状化現象とは、地震が発生して地盤が強い衝撃を受けると、支え合っていた土の粒子がバラバラになり、盤石に見える地盤の中の液体物質が一時的に流れ出し、地盤全体がドロドロの液体のような状態になる現象のことです。その液状物質が「出口」を求めて勢いよく流れ出し、地中や地表に現れるとどうなるでしょうか。
盤石であるはずの地盤が液状化するということは、建物や道路などの構造物を支える土台が軟弱化するということです。この現象により、建物や道路などが沈んだり、傾いたり、地中に埋まっていたマンホールや浄化槽などが浮かび上がって地面に飛び出したり、あるいは最悪の場合は、地面が流れ出したり、地上の構造物が倒壊したりする事例が数多記録されています。地震後に道路のコンクリートにヒビが入ったり、水道管が破損したり、マンホールが浮上したりした例をご覧になったご記憶があるのではないでしょうか。
地震は直撃による一次被害だけでなく、こうした二次災害も日常生活を毀損する可能性が高いことを忘れてはなりません。
液状化現象の代表的事例:ポートアイランド
液状化現象が生じた土地がどのような状態になるかについては、阪神淡路大震災後のポートアイランドの例が最もわかりやすいので紹介します。
まずは、ポートアイランドにおける液状化現象の記録写真をご覧ください。
(いずれも神戸市HPより)
神戸市は震災の記録をまとめ、上記のような写真とともにHPで公開しています。
阪神・淡路大震災の二次災害として、液状化現象が甚大な被害をもたらしたことは写真から明らかです。
学校の校庭は地面が割れています。
地面を盛り上げる圧力が、地面のコンクリートを破壊しています。
あるいは、地中の液状化が地面の上に現れて、地表は液体に覆われています。
ポートアイランドの液状化現象は完全復帰まで2年かかりました。その間、使用できなかったのですから、産業活動のストップや住民の不便さなどの経済的損失は計り知れません。
液状化現象の警鐘
ポートアイランドの例から明らかなのは、「埋立地=液状化現象が100%起こる土地」と考えられることです。
ポートアイランドは、六甲山地の良質な土砂のみ(不純物はいっさいない)をベルトコンベアで運んで埋め立てた土地です。その土砂は「真砂土(まさど)」と言います。液状化現象の元凶として、当時、話題になりましたが、土砂による液状化現象であるため有害物質による被害はありませんでした。
一方、東京湾に接する東京及び周辺地域と大阪湾に接する大阪及び周辺地域は、選別されていない産業廃棄物、アスベスト、使用済注射器等によって埋め立てた土地です。その土地の物質について、大阪市は次のように公開しています。
ーーーーーーーーーーーーーーー
夢 洲 ( 北 港 南 ) 地 区 は 、 良 好 な 都 市 環 境 の 保 全 や 公 害 防 止 、 大 阪 港の 機 能 強 化 を 目 的 と し た 処 分 場 と し て 整 備 さ れ 、 大 阪 市 内 か ら 発 生 する 一 般 ・産 業 廃 棄 物 や 道 路 工 事 な ど の 建 設 工 事 に 伴 う 掘 削 残 土 、大 阪 港の 機 能 を 維 持・増 進 す る う え で 必 要 な 浚 渫 土 砂 で 埋 立 て を 行 っ て い る 。
夢 洲 ( 北 港 南 ) 地 区 は 、昭 和 5 2 年 に 埋 立 を 開 始 し て お り 、 4 工 区 に分 割 し 、1 区 は 一 般 ・産 業 廃 棄 物 を 、2・3 区 は 浚 渫 土 砂 や 陸 上 発 生 残 土の 処 分 地 と し て 、 4 区 は 陸 上 発 生 残 土 等 に よ り 埋 立 て を 行 っ て い る 。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「埋立地=液状化現象が100%起こる土地」です。
ところが、大阪府が公開する液状化現象予測マップは下記のようになっています(2023年8月28日現在)。
埋立地である夢洲で、赤色(=液状化の可能性大)の予測は限定的で、ほとんどがグレー(=液状化の可能性なし)になっていて、ポートアイランドの例を見れば信じがたい予測です。
液状化現象の予測マップは、地方自治体により公表されています。上記の大阪府の予測マップのように鵜呑みにできないものもあり注意が必要な場合もありますが、マイホームの購入を検討する時、特に東京、大阪などの湾岸の開発地域、河川地域は液状化現象が起きる地域に該当するかどうかをチェックすることをおすすめします。
液状化現象の知識を活かす
液状化現象が見られたポートアイランドの一部ではあらかじめ地盤対策が講じられていたことから、液状化はほぼ起きませんでした。また、対岸のメリケンパークに建設中だったホテルは最新かつ厳重な地盤改良策を採用していたことから、隣接する神戸湾岸が重大な被害を受けたにもかかわらず被害はありませんでした。
しかし、だからと言って、「地盤改良や地盤対策をしていれば安全安心」というわけではありません。これについて住民と分譲会社らが争った事案の最高裁判所の判決を見てください。
ーーーーーーーーーーーーーーー
千葉県浦安市の埋立地に建設された「パークシティ・タウンハウスⅢ」は、東日本大震災により敷地に液状化が発生した。地面の陥没に伴い建物が傾くほか、給水管やガス管が破損する等の被害に見舞われた。
住民は分譲した三井不動産等に対し、地盤と住宅の改良・補修費や慰謝料等総額約8億円以上の損害賠償請求を行なったが、一審、二審ともにこれを棄却し、最高裁判所が上告を退け、二審判決が確定した。
ーーーーーーーーーーーーーーー
この最高裁判決の要点は次のようなものです。
●東日本大震災規模の地震の発生と、これに伴う深刻な液状化被害の発生を予測することは困難である。
●分譲会社に、液状化現象の発生を予防することを目的とした地盤改良工事を行う義務があったとはいえない。
住民は、浦安近隣の分譲地は予防対策工事が行われていたため液状化が起きなかったと指摘しました。また、自治体も分譲会社も液状化リスクを承知していたのに対策を取らなかった、と主張しました。
しかし、最高裁判決は、「自己責任」というものでした。
液状化が起きたら、行政、分譲会社はもちろん、司法もあなたを助けてはくれません。液状化リスクを承知の上で埋立地にマイホームを購入するのであれば、地盤が陥没しても建物が傾いても、すべて自己責任となる可能性が非常に高いということを肝に銘じていただきたいと願ってやみません。
それゆえ、「液状化現象の危険性のある地域は土地の購入を絶対に避けなければならない」という教訓で締めくくりたいと思います。