結論
シミュレーション結果から賃貸をおすすめ!
決め手は、被災した場合のコストである。
現役不動産鑑定士が、マンションに関して、購入が得なのか、賃貸が得なのか、コスト面での比較を踏まえて説明します。
マンション購入の基本ポリシー
マンションの購入に当たっておすすめできる物件というのは、将来の財産価値の観点からみて良い物件かどうかということに尽きます。
将来の財産価値の評価を購入者が行うことは容易ではありません。マンションに限らず、不動産全般に関して言えることですが、不動産の供給(販売)サイドと需要(購入)サイドの情報格差が大きいためです。
不動産の購入は、消費者にとって一生に一度あるかないか、しかも何千万円もする買い物です。情報を入手しやすくなったと言っても、多くは供給サイドが提供するものなので、美辞麗句を並べた広告につられた価値評価になりがちです。それは「売るための価値評価」です。自ら検証するならば、まずは専門家の意見を聞くのが真っ当な方法というものです。
マンション構造偽装事件、自然災害によるマンションの倒壊や浸水被害といったニュースが流れるたびに、心配していたことが現実に起きたと感じることが多くなっています。ですが、このような事件や被害は、起こるべくして起こったものです。
私は数十年にわたりマンション購入予定者から相談を受け、マンションの購入、所有が宿命的に負う欠陥を指摘してきました。その上で、該当物件の財産価値を検証してきました。すると相談者のほとんどは、マンション購入をやめて一戸建て住宅を購入するという賢明な選択をしてくれました。
原則として(絶対ではない)マンション購入をおすすめできない理由を具体的に説明した記事を是非御覧ください。
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この記事に、不動産の購入、特にマンションの購入を検討する際の基本戦略と不動産購入に絶対失敗しないポイントを説明しています。
マンションの購入か賃貸か?の基本的考え方
マンションに限らず、マイホーム購入の意思決定では、自身や家族の生活スタイルや価値観に合う地域を選定します。例えば、通勤や通学の利便性、あるいは育児環境や趣味を重視する方もいるでしょう。
今後のライフプランに合う地域の選定と共に重要なのが資金計画です。マイホームの購入は生涯に一度あるかないかの大きな買い物ですから、着実な資金計画に基づいて住居の購入費を捻出し、予算を組むことが重要であることは言うまでもありません。
地域選定と資金計画等が固まり、物件探しの段階に入るわけですが、そもそもマイホーム購入にあたって、一戸建てかマンションか、あるいはマンションの購入か賃貸か、という問題を検討せずに物件探しをスタートする方が多いようです。
マンションを購入しようとする動機の一つとして、「賃貸物件で毎月賃料を払ったり、更新の都度手数料をとられたりするより、長期的にはマンションを購入したほうが資産として残るから、得だ」と考えるからでしょう。実際、相談者のほとんどが、そのように考えていました。
間違っているとまでは言いませんが、実はそこには大きな落とし穴があります。
マンションの購入と賃貸のどちらが得かについては、結論から言えば、物件の条件や個別の事情にもよりますが通算コストはほとんど変わらない、もしくは賃貸のほうが安価です。
(詳しくは、後述のシュミレーションで説明します)
コストの比較では、見落としがちな考慮すべきポイントがあります。それは、1995年に起きた阪神淡路大震災のような自然災害です。この大震災で実際に起きたことを説明しましょう。
震災当時、賃貸でマンションに住んでいた人は、壊れたマンションからすぐに他のマンションへ引っ越しました。費用はあまりかかりませんし、後日、賃貸に関して法的に問題になったケースはほとんどありません。
ところが、分譲マンションに住んでいた方はどうだったでしょうか。
当時、住居マンションが傾き、住める状態でなくなった方々はものすごい数に及びます。そこで何が起こったか。住めないのにローンはそのまま残り、取り壊してから建て替えるのも大変で、二重負債に苦しむことになったのです。もちろん、国や地方行政は一切面倒を見てくれません。
(一戸建ては、費用はかかるものの、マンションのような住人の合意が不要なため、問題解決は簡単です)
日本は、数十年に一度、大震災が起こります。河川の氾濫による浸水被害も年々増えてきています。これらは日本の国土に由来する問題なので、我々がコントロールすることは不可能です。このことは歴史が証明しています。
我々が住んでいる場所で、これから大震災が起こる可能性があるのです。歴史を教訓とするのであれば、関東周辺も間違いなく数十年おきに大地震が起きますし、今後間違いなく起こることが予測される南海トラフ地震の警戒も強化されています。
首都圏では1923年の関東大震災以来、いわゆる首都直下型の大きな大地震は起きていません。100年後の今、私は、過去の教訓を生かして災害という不測の事態に備える必要があると考えています。
不動産の購入を考える方々には、この阪神大震災の経験を絶対に教訓としていただきたいと思います。不幸にもこのような事態に直面した場合、資産価値がゼロになる可能性があることを肝に銘じてください。
マンション購入のリスク
大震災等の自然災害について説明しましたが、個別物件診断時の判断についても簡単に説明します。
結論としては、大震災時の教訓を生かし、災害に対するリスクを十分に考慮してマンション購入を考えるべきです。なぜなら、個別の物件を評価すると、マンションを所有すること自体が一戸建て住宅の所有や賃貸と比較して非常にリスクが高いという結果になるからです。
不動産鑑定は、個別の物件を評価するものです。その際、大震災等を考慮する必要があります。
みなさんは高度経済成長期(昭和40年代前後)に、東京の新宿に高層ビル街が建設された理由をご存知でしょうか?
大きな理由の一つとして、新宿地域は東京でも地盤が固い、すなわち、震災に強い地域だからです。これは、1923年の関東大震災の状況から明らかで、東京都内で被害の大きかった地域と小さかった地域が明確にわかります。新宿周辺地域は、他の地域より被害が小さかったのです。
厳密に言えば、災害の大小は、地震の震源地や建物の密集度などにも左右されます。また、建築設計に関する技術的な問題も当時と現在では大きく異なります。
しかしながら、震災時における被害の程度は、地盤の固さによるところが大きいことは間違いありません。地震が多いという国土的な特徴のある日本において、この地盤の固さは実に重要です。もちろん、日本国内全体を見て、被災の可能性が高い地域、低い地域があります。その中で、東京周辺地域は、残念ながら被災の可能性が低いとはいえません。必ず数十年に一度の割合で大災害が起きて、大きな被害を受けていることは歴史が証明しています。
こうした歴史の教訓を無視して、一生に一度あるかないかの高額な買い物となるマイホーム購入を考えるとき、リスクを最小限に押さえることは当然です。その必要性については、他の記事でも繰り返し説明しています。
地盤の固さなどの地域特有の不動産の性質について、不動産評価の素人である消費者が把握することは難しいと思います。
当サイトでは、全国の新築マンション、中古マンションの個別の物件の査定の記事を配信しています。このマンションを査定してほしいというリクエストがあれば、お問合せページから物件名をご連絡ください。
受信後、速やかに、リクエスト物件の査定記事を配信いたします(【完全無料】)。
将来の財産価値の観点から、稀少性の判断を重要視した査定結果を配信していますが、大震災や浸水リスクなどの自然災害リスクのある地域については、リスクのレベルを記載していますので、是非ご利用ください。
住宅購入地域については、多くの方々がこだわりを持っているようです。通勤や通学の利便性の他に、子育て、実家との距離、あるいはその土地への愛着などです。個別の事情は人ぞれぞれなので、住居地域の特定は致し方ないことですが、そうした場合も、マイホーム購入で絶対に失敗しないために、購入してはいけない地域を基本的に理解して、大きなリスクを排除することが必要です。
以上のような考え方を基本として、マンションの購入は、原則として(絶対ではない)将来の財産価値の観点から避けるべきである、という主張を相談者たちに繰り返し述べてきました。
マンションの【購入】と【賃貸】のコスト比較
先述の通り、さまざまな事情を考慮して、どうしてもマンションに住みたいという方には、購入よりも賃貸をすすめてきました。
マンションに住むという意思決定をした方でも、そもそもマンションを購入すべきか、賃貸にすべきか、特にコスト面でどちらが得なのかについて悩んでいる方が多くいます。そのようなケースで私は、下記のシュミレーションで説明しています。
1.購入のコスト
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<物件例概要>
・購入物件:東京都文京区の新築マンション(地下鉄駅徒歩10分)
・売主:大手不動産会社(一流会社)
・専有面積:49.18㎡
・購入価格:4,948万円
・環境:四方道路に面し全戸南向き、公共教・育施設が充実し、植物園も近く緑豊かな環境
・総戸数:80戸
・管理費:8,270円/月
・修繕積立金:4,770円/月
・同積立基金:27万円/年
・敷地面積:1407.95㎡
・建物延面積:6246.99㎡
<購入の前提条件>
・全額ローンで35年間返済
・金利は現行水準(3%)、35年間で推移
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【A】この条件で購入した場合に所有したことにより35年間に支払わなければならない全ての金額合計はいくらになるか
①銀行に支払うローン総額
190,500円/月 × 12ヶ月 × 35年 = 80,010,000円
②管理費
8,270円/月 × 12ヶ月 × 35年 = 3,473,000円
③修繕積立金
4,770円/月 × 12ヶ月 × 35年 = 2,003,000円
④修繕積立金(引渡し時のみ)
270,000円
⑤不動産登録税
1,480,000円
⑥不動産取得税
890,000円
⑦固定資産税
200,000円(年間) × 35年 = 7,000,000円
⑧専有部分の修繕費(③は共有部分のみ対象)
特に水廻り部分を中心として35年間で3,000,000円
⑨火災保険
50,000円(年間) × 35年 = 1750,000円
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総額(①~⑨の合計)は 99,876,000円
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【B】35年後の当該マンションの資産価値
①建物
35年経過後の当該マンションの建物部分の資産価値は、物理的、経済的(市場性)、機能的の全ての面から考えて0査定となることは万人の予測するところである。
②土地
①の建物の状態から、その時点での土地価格は最有効使用の観点から建物を取壊し、更地とする前提での評価となる。
(1)更地価格
時価 面積 按分
700,000円/㎡ × 1407.95㎡ × ≒ 9,664,000円
(2)取壊し費用
30,000円/㎡ × 6246.99㎡ × ≒ 1,837,000円
(3)土地価格
(1)-(2)= 7,827,000円
当該土地価格は、今後35年間、地価の変動が±0とした前提のものである。この場合の当該マンション購入による35年後の収支バランスは、下記のようになる。
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99,876,000円 - 7,827,000円 = 92,049,000円の支出増
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従って、今後35年間に地価が2倍、3倍になるとすれば、それだけ収支バランスは改善することになる。
しかし、取壊し費用については直近でも年間10%以上上昇しており、今後も特に環境問題が社会の中心課題になっていくことは間違いないことを考えると、その上昇が続くと予測される。
従って、その上昇分は土地価格の評価額を通してマンション購入時の35年間の収支バランスを悪くすることになる。
2.賃貸のコスト
【A】購入物件と同条件のマンションを35年間借り続けた場合の支出額合計
①賃料(管理費込み)
180,000円 × 12ヶ月 × 35年間 = 75,600,000円
②~⑨(管理費、修繕積立金、不動産登録税、専有部分の修繕費)
これらは全て貸主負担によりゼロ
⑩礼金、手数料
180,000 × 3 = 540,000円
⑪共益費
5,000円 × 12ヶ月 × 35年 = 2,100,000円
⑫更新料および事務手数料 地域格差と個別格差によるので計上しない
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総額(①~⑪の合計)は 78,240,000円
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3.結論
購入のコスト 92,049,000円
賃貸のコスト 78,240,000円
マンションを購入しようという心理的動機の一つに、「賃貸物件で毎月賃料を払うのは捨て金になるから損」「更新の都度手数料をとられるのは損」といった損得勘定が働いているようです。実際、これまで私がマンション購入で相談を受けたケースのほとんどは、そのような根拠のない損得勘定に起因するものです。その際、私が例示してきたのが、上記のシュミレーションです。
条件や個別の事情にもよりますが、購入と賃貸のコストを考える時、通算のコストは同程度であることを説明します。個別の事情によっては賃貸のほうが安くなることもあります。
そして、コスト面で考えなければならないもう一つの側面が、自然災害での被災です。
購入したマンションが被災した場合、取り壊して更地にしない限り買い手は現れません。更地を売却できても、その大部分は取り壊し費用と相殺されるので、手元に残る資金はわずかです。
さらに、購入した被災マンションには住めないので、別の住居を借りるか買うかするための資金を確保しなければなりません。その資金に加えて、
住めなくなったマンションのローン残額を返済し続けなけらばならないのです。なぜなら、ローン残額は免責とならず全額残るからです。
一方、戸建住宅は、被災して倒壊しても、撤去費用数百万円で更地にできるので、更地の売却益でローンを完済する可能性が高いでしょう。
物件の各種条件によって、上記のシュミレーション結果(購入と賃貸の通算コスト)がほぼイーブンになる可能性もありますが、たとえイーブンだったとしても、被災した場合のリスクを考慮すれば、圧倒的に賃貸をおすすめすると結論付けたいと思います。