マンションを購入するにあたっての基本的な考え方
マンションを購入したい方に、不動産鑑定士として一つだけアドバイスするならば「将来の財産価値の観点からみて良い物件かどうか」ということに尽きます。
将来の財産価値の評価を購入者自らが行うことは容易ではありません。その最大の理由は、不動産の供給(販売)サイドと需要(購入)サイドの情報格差が大きいためです。これは、マンションに限らず不動産全般に関していえることです。
不動産に関して素人である消費者が、一生に一度、しかも何千万円もする買い物をするのに、美辞を並べた美しい広告に魅了されて、半ば衝動的にマンションを購入してしまうことは非常にリスクが高いということをまずは肝に銘じてください。
マンションを購入する前に鑑定を依頼する方々に対して、私は過去何十年にわたってマンションの購入、所有によって宿命的に負うことになる「欠陥」とそれに伴う将来的なリスクを指摘してきました。不動産の購入に関して専門家の見解を参考にするのは、病気であればセカンドオピニオンのようなものです。主治医である販売会社の主張とセカンドオピニオンの見解は違うのが当然です。なぜなら、前者の目標は販売であり、後者のそれはリスクヘッジだからです。こうしたスタンスで私の見解を理解した方々のほとんどがマンション購入をやめて一戸建て住宅を購入しました。
その決断が正しかったことは、2005年に発覚した耐震偽装事件(構造計算書偽造問題、通称「姉歯事件」)が示しています。この事件は起こるべくして起こったものです。
事件が発覚してしばらくの間、マンションの販売会社と施工会社に対して、世間は厳しく監視するようになりました。ところが十数年を経て、その教訓はすっかり忘れられてしまったようです。
マンションの将来の財産価値をしっかりと考えてから買う
耐震偽装事件の教訓を含めて、私が原則として(絶対ではない)「マンション購入をすすめることのできない理由」を説明します。
今春、Aさんは一戸建て住宅、Bさんはマンションを購入しました。購入価格はいずれも5000万円です。下の【資産価値比較1】は20年後、30年後の両者の資産価値を比較したものです。30年後の資産価値(⑥)は、マンションは資産価値がマイナスとなり、一戸建住宅が有利であることがわかります。
【資産価値比較1】
一戸建て住宅とマンションの新築取得後から30年後の資産価値比較
<前提条件1-1> この間(30年間)の物価上昇、地価上昇は±0とする。
(単位:万円)
一戸建て住宅(木造) | マンション (SRC:鉄骨鉄筋コンクリート) | |
①取得価格 | 5,000 | 5,000 |
価格構成 | 土地:3,000(60%) 建物:2,000(40%) | 土地:2,000(40%) 建物:3,000(60%) |
②30年間の維持管理費計 | 910 | 1,940 |
<内訳> ・管理費 | 0 | 540 (15,000円/月×12×30) |
・修繕積立金+基金 (共用部分) | 0 (共有部分なし) | 360(10,000円/月×12×30)+50(基金) |
・修繕費(専有部分) =給排水取替え1回分 | 50 (配管が単純) | 100 (配管が複雑) |
・公租公課 | 800 | 800 |
・損害保険料 | 60 | 90 |
③取壊し費用(今後、各種法律が強化され、当該費用は他の物価と比較して相当な上昇が予測される) | 300 | 1,000 |
④30年後の建物の価値 | 0 (木造住宅の税法上の耐用年数は24年であるが、維持管理が良ければ経済的耐用年数は十分に30年はある) | 0 (SRCの税法上の耐用年数は本体47年、諸設備平均15年であるが、市場性(価格)の観点から経済的耐用年数は30~40年で、この時点で建替えが必要となる) |
⑤30年後の土地価格-30年後の取壊し費用=30年後の更地(資産)価格 | 3,000-300 =2,700 | 2,000-1,000 =1,000 |
⑥30年後の純資産価格 (=⑤-②) | 2,700-910 =1,790 | 1,000-1,940 =(-)940 |
【資産価値比較1】では物価上昇、地価上昇を±0としましたが、それらが上昇する可能性も十分想定できます。
【資産価値比較2】で試算してみます。
【資産価値比較2】
<前提条件2-1>30年後の土地価格が現在の2倍になっている。
<前提条件2-2>30年後の取壊し費用が現在の2倍になっている。
(単位:万円)
一戸建て住宅(木造) | マンション (SRC:鉄骨鉄筋コンクリート) | |
①取得価格 | 5,000 | 5,000 |
価格構成 | 土地:3,000(60%) 建物:2,000(40%) | 土地:2,000(40%) 建物:3,000(60%) |
②30年間の維持管理費計 | 910 | 1,940 |
<内訳> ・管理費 | 0 | 540 (15,000円/月×12×30) |
・修繕積立金+基金 (共用部分) | 0 (共有部分なし) | 360(10,000円/月×12×30)+50(基金) |
・修繕費(専有部分) =給排水取替え1回分 | 50 (配管が単純) | 100 (配管が複雑) |
・公租公課 | 800 | 800 |
・損害保険料 | 60 | 90 |
③取壊し費用(今後、各種法律が強化され、当該費用は他の物価と比較して相当な上昇が予測される) | 300 | 1,000 |
④30年後の建物の価値 | 0 (木造住宅の税法上の耐用年数は24年であるが、維持管理が良ければ経済的耐用年数は十分に30年はある) | 0 (SRCの税法上の耐用年数は本体47年、諸設備平均15年であるが、市場性(価格)の観点から経済的耐用年数は30~40年で、この時点で建替えが必要となる) |
⑤30年後の土地価格-30年後の取壊し費用=30年後の更地(資産)価格 | 6,000-300 =5,700 | 4,000-1,000 =3,000 |
⑥30年後の純資産価格 (=⑤-②) | 5,400-910 =4,790 | 3,000-1,940 =1,060 |
このように、一戸建て住宅とマンションの資産価値の開査はさらに大きくなる、つまり将来の財産価値の観点からは、圧倒的に一戸建住宅のほうが資産価値は大きいのです。マンションの購入は、将来の資産価値に対するリスクがあることをよくよく肝に銘じてください。
とはいえ、消費者にはそれぞれ個別の事情があり、マンションに住みたい方も多いことでしょう。実際、私がアドバイスをした方々の大半は、マンションを最有力候補としていました。そういうケースで私が必ず説明する事例があります。それは、阪神・淡路大震災の時に起こった分譲マンション所有者の不幸な出来事です。
この震災では、阪急三宮駅、大丸神戸店、ダイエー三宮本店等の建物に加えて、都心及びその周辺のマンションが全壊あるいは半壊しました。当時、賃貸マンションの住民は震災後に賃貸借契約を解除して被害のなかった地域に転居しました。損害は家財だけです。一方、分譲マンションをローンで購入した住民はどうなったでしょうか。
購入マンションが被災した場合、将来的に住める見込みはないので、これを取り壊して更地にしない限り買い手はつきません。更地を売却したとしても、大部分は取り壊し費用と相殺されるので、手元に残る資金はわずかです。ローン残額は免責とならず全額残るわけです。別の住居を賃貸あるいは購入するための資金を確保したとしても、住めなくなったマンションのローン残額を返済し続けなけらばならないのです。
私は学生時代の親友が三宮中心部の住人だったこともあり震災後に友人宅を訪れ、震災地の悲惨な状況を実際に見て、改めてマンション分譲の所有権について疑問を感じました。
このとき、戸建住宅の大多数も全壊または半壊で住めなくなりましたが、震災後、これらの土地はほぼすべて更地になっています。なぜなら、戸建住宅は撤去費用数百万円で更地にできるので、更地の売却益でローンを完済することが可能だからです。
日本は自然災害、とりわけ地震の多い国であり、数十年に一度はこの震災のような事態が起こりうることが歴史の教訓です。地震が頻発する地域のみならず日本全国にそのリスクがあります。このローン残額の問題は、マンションの購入を希望される方々にぜひ一度考えていただきたい重要なテーマです。
マンションの販売業者と施行業者が大手企業で賠償能力があるのかを調べる
マンションの販売会社と施工会社の良否を判断するのは容易ではありません。それは、専門家でも同じです。上場企業から名も知れない企業まで様々ですし、販売に関しては代理販売会社も存在します(後日問題が生じた時、この「代理」というのが、さらに問題を複雑にします)。それらの企業の良否を何をもって判断するか。
結論を先に言いましょう。
「問題が生じた時に購入者に対して賠償能力があるかどうか」
これが非常に重要です。
2005年の耐震偽装事件を思い出してください。販売、施工サイドに法的に10年の瑕疵(かし)担保責任があると言っても、姉歯事件のヒューザーや木村建設のように、販売会社と施工会社に賠償能力がなければ、購入者を救う方法はありません。
しかし、販売が三井不動産、施工が鹿島建設のマンションで同じような問題(欠陥)が発生したらどうでしょうか。もちろんこの両者は連帯して面子(メンツ)をかけて、購入者に十分過ぎるほどの賠償をすることでしょう。両社が購入者に対して十分な賠償をした例を説明しましょう。
2016年、横浜市の「パークシティLaLa横浜」での4棟のうち1棟で傾きが見つかりました。マンションの管理組合が4棟全ての建て替えを正式決議し、2020年冬までの再入居を目指すという報道がされました。決議集会には424人の住民が参加し、終始和やかな雰囲気のまま、総議決件数の99.7%の賛成で全棟の建て替えが決まりました。住民が文句一つ口にせず、建て替えに賛成したのは、販売元の三井不動産レジデンシャルが提示した補償が破格で、全棟の建て替え費用300億円とは別に、住民に対し100億円の補償を用意したというものでした。
まさに、面子(メンツ)をかけて三井不動産が、購入者に十分過ぎるほどの賠償をした事例といえるでしょう。
このようにマンションをどうしても買いたい場合には、最低限の賠償能力が十分にあることが素人からみても明らかな業者(販売、施行両者が十分で、片方では絶対にだめです)の物件を選ぶべきで、いささかとも賠償能力の疑問のある業者の物件は絶対に購入してはダメです。
また、2005年の偽装事件は設計上の問題でしたが、実はマンション建築の現場で日常的に行われているのが「手抜き」の問題で、私の知る限り、手抜きの行われていない現場は前述一流の業者を除いては、ほとんどないのが現状です。すなわち、設計は完全な構造計算が行われ、設計上は全く問題ないのですが、現場ではこの設計どおりに施行するとコストが高くなるので、構造だけでなく、色々な目に見えない所で手抜きをしているのです。そしてそのようなマンションに限って、外観は結構素人の方の目を引き付けるような綺麗な化粧をしているのです。
上記のような一流企業の場合でも、手抜きが全くないとは言いきれませんが(故意ではなく過失で)、そのような事が後日明らかになった場合にもメンツにかけてすばやく対応するはずです。
最悪のケースは、偽装事件のヒューザーや木村建設のように問題が生じた時に倒産してしまう場合です。このような事例は珍しくもなく、しばしば現実に発生しているということを肝に銘じておくべきです。
失敗しないためのマンション選びのポイントまとめ
最後に、失敗しないためのマンション購入についてまとめます。
基本的にはマンション購入はおすすめしない
マンションの購入は、原則として、将来の財産価値の観点から避けるべきである。
例外的に購入してもいいマンションの条件
将来の財産価値の観点から購入しても良い物件があります。
その条件は、将来中古物件となった時に近隣において二度と同じような売物件が出ないような物件。
すなわち、極めて希少な物件であること。
例えば、駅の上に立つ駅ビルのようなマンション、駅広場もしくは駅に隣接するとか地下が地下鉄の駅に直結しているなど。
(※)稀少価値のある物件についての補足
希少価値のある物件とは、将来当該マンションが中古物件として販売しようとして市場に出した場合、当該中古物件と競合するような物件が存在しないようなマンションのことを指します。
言い換えれば、当該中古物件の代替物件が存在しないと言うことです。
このような物件は需要と供給の関係で価格が決まる事はなく、供給者(売り手)サイドの売却希望価格で売却が可能な物件なのです。すなわち独占価格を設定できる物件です。
より具体的には、二度と同じような立地で供給できないマンション、例えば駅前広場に接している物件等です。
立地の良いマンションがそのようなマンションに該当する事は誰もがイメージできるとは思いますが、立地以外にも希少性の高いと判断できるものもあります。
販売業者施工業者共に賠償能力があること
販売業者、施工業者が(共に)十分な賠償能力があると、誰もが認めるような一流企業であること。
マンション購入はおすすめしない
将来の財産価値の観点から、不動産購入したいのであれば、基本的には一戸建て住宅が良い。
賃貸がおすすめ
どうしてもマンションに住みたいのであれば、基本的には賃借の方が良い。